自社の食品をネットでも売りたい。そう考えたとき、最初に迷うのが「何から手をつけるか」ではないでしょうか。食品は他の商材と違い、許可や表示のルールが関わります。一方で、そこを恐れて動けずにいる事業者の方も少なくありません。この記事では、中小の食品事業者がネット販売を始めるときの流れを、実務の順番で整理します。
食品は「いちばん伸びしろが残っている」分野
経済産業省の「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」によると、2024年の食品・飲料・酒類のEC化率は4.52%でした。物販全体のEC化率が9.78%ですから、その半分以下ということになります。
言い換えれば、食品の売買のうち95%以上は、いまも店頭や対面で行われているということです。
この数字は、二通りの読み方ができます。ひとつは「食品はネットに向かない」。もうひとつは「まだ誰も取り切っていない」。
実務の感覚では、後者に近いと感じています。生鮮品の鮮度や送料の問題があるのは事実ですが、贈答用や地域の特産品、こだわりの調味料といった分野では、ネットだからこそ届く相手がいます。県内では知られていても県外では知られていない、という商品ほど、その差は大きくなります。
地元で当たり前に売れているものが、遠くの誰かにとっては探しても見つからないもの、ということがある。
順番1:許可を確認する
最初に確認すべきは、法令面です。ここが曖昧なまま進むと、後戻りが大きくなります。
製造・加工には営業許可が必要
自社で製造・加工した食品を販売する場合、食品衛生法にもとづく営業許可が必要です。菓子製造業、そうざい製造業、飲料水製造業など、扱う食品によって区分が分かれます。すでに店舗で製造・販売している事業者であれば、多くの場合は許可を取得済みのはずです。
一方で、店舗販売用に取得した許可の範囲と、通信販売で扱いたい商品の範囲が一致しているかは、確認する価値があります。新しく作る商品が別区分にあたることもあります。
仕入れて売るだけなら届出で足りることもある
他社が製造した包装済みの食品を、開封せずにそのまま販売する場合は、営業許可ではなく届出で足りることがあります。ただし要冷蔵・要冷凍のものは扱いが変わります。
酒類は別に免許が必要
インターネットで酒類を販売する場合は、通信販売酒類小売業免許が必要です。店頭販売の免許とは別のものなので、注意が必要です。
区分の判断に迷ったら、管轄の保健所に確認するのが確実です。事前に相談すれば、必要な手続きを教えてもらえます。この一手間が、後の大きなやり直しを防ぎます。
順番2:食品表示を用意する
ネット販売では、商品そのものへの表示と、サイト上での表示の両方が関わります。
商品への表示は、食品表示法にもとづく一括表示です。名称、原材料名、添加物、内容量、消費期限または賞味期限、保存方法、製造者などを、決められた形式で記載します。すでに店頭で販売している商品であれば、この表示は完成しているはずです。
問題になりやすいのは、サイト上での表示のほうです。
- アレルゲンの情報が、商品ページに書かれていない
- 賞味期限が「製造日から◯日」としか書かれておらず、届いた時点で何日残っているのか分からない
- 保存方法(常温・要冷蔵・要冷凍)が、注文の直前まで分からない
こうした情報は、お客様が買うかどうかを判断するために必要なものです。同時に、書かれていないことがクレームや返品の原因にもなります。
商品ページに、パッケージの一括表示部分の写真を1枚載せておく。これは手間の少ない方法でありながら、お客様の不安を減らす効果があります。
順番3:送料を設計する
食品ECで、もっとも利益を左右するのがここです。
温度帯で送料が大きく変わる
常温・冷蔵・冷凍で、送料は段階的に上がります。冷凍便は常温便の1.5倍以上になることもあります。「原価に送料を足したら、まったく利益が残らなかった」という状態は、設計の段階で防げます。
単品売りは送料負けしやすい
数百円の商品を1点だけ送ると、送料のほうが高くなります。食品ECでは、セット組み・詰め合わせ・まとめ買いが基本になります。「何を組み合わせて、いくらで出すか」が、そのまま利益設計になります。
送料無料ラインは「商品ページ」に書く
送料が無料になる金額を、カート画面まで進まないと分からない状態にしていると、離脱の原因になります。商品ページに書いておくことで、もう一品を検討していただけることがあります。
送料を自社で負担するか、お客様に負担いただくか。この判断に唯一の正解はありません。ただ、判断する前に、1件あたりの利益を計算しておくことは必要です。売れば売るほど赤字が増える設計になっていないか、最初に確かめます。
順番4:小さく始めて、数字で広げる
すべての商品をネットに載せる必要はありません。むしろ、最初は絞ったほうがうまくいきます。
ステップ1:売る商品を3〜5点に絞る
なぜ必要か
商品数が多いほど、写真・説明文・在庫管理の負担が増えます。最初から手を広げると、続かなくなります。
どうやるか
店頭でよく売れているもの、日持ちがするもの、送りやすいものを基準に選びます。
注意点
「全部載せないと選んでもらえない」と考えがちですが、実際は逆です。選択肢が少ないほうが、お客様は決めやすくなります。
ステップ2:ギフト需要を確かめる
なぜ必要か
食品ECでは、自家用よりも贈答用のほうが単価が上がりやすく、送料も吸収しやすくなります。
どうやるか
のし・包装・メッセージカードに対応できるかを確認します。対応するなら、その旨を商品ページに明記します。
注意点
贈り先に直接届ける場合、金額の分かるものを同梱しない配慮が必要です。
ステップ3:既存のお客様に知らせる
なぜ必要か
最初の注文は、まったく知らない人からではなく、すでに関係のある方から入ることが多いためです。
どうやるか
店頭でのご案内、名刺交換をした方へのご連絡、店内へのご掲示。特別なことは必要ありません。
注意点
この段階で、注文から発送までの流れを一度通しておきます。梱包資材の不足や、伝票の運用の問題は、実際にやってみないと分かりません。
ステップ4:検索から見つけてもらう準備をする
なぜ必要か
既存のお客様だけでは、いずれ頭打ちになります。県外の新しいお客様と出会う経路が必要です。
どうやるか
「地域名+商品カテゴリ」「商品名+通販」で検索し、自社が出てくるかを確認します。出てこなければ、その言葉で探している人には届いていません。商品の背景や使い方を記事として書き、検索の受け皿を増やしていきます。
注意点
効果が出るまでには時間がかかります。ステップ3と並行して進めるのが現実的です。
つまずきやすい点
実務でよく相談を受けるのが、次の3つです。
在庫と賞味期限の管理。店頭と在庫を共有していると、ネットで受注した分が店頭で売れてしまう、ということが起こります。最初のうちは、ネット用の在庫を物理的に分けておくほうが確実です。
繁忙期の発送体制。年末やお中元の時期に注文が集中すると、通常業務が回らなくなることがあります。受注の上限を決めておく、発送日を限定するなど、無理のない設計にしておきます。
クール便の梱包。冷凍品が溶けた状態で届く、というトラブルは信用に直結します。実際に自宅宛に送ってみて、届いたときの状態を自分で確かめておくことをおすすめします。
一度でも「届いたときにがっかりさせる」と、その方はもう戻ってこない。
まとめ
- 食品のEC化率は4.52%で、9割以上がまだ店頭。伸びしろが大きく残っている分野
- 最初に許可の範囲を確認する。迷ったら管轄の保健所に事前相談すると確実
- サイト上でのアレルゲン・賞味期限・保存方法の記載漏れに注意する
- 送料は温度帯で大きく変わる。1件あたりの利益を計算してから価格を決める
- 商品は3〜5点に絞り、既存のお客様への案内から始める。検索対策は並行して進める
サイトURL・業種・メールアドレスの3項目で、8つの観点から改善の優先度をまとめてお送りします。無料EC診断を見る →
食品のネット販売を「何から始めるか」で迷われている場合は、無料相談で商品と体制をそのままお聞かせください。許可・表示・送料の順に、実行できる形で一緒に整理します。
店頭で営業許可を取っていれば、ネット販売にそのまま使えますか
すでに取得済みの営業許可の区分と、通信販売で扱いたい商品が一致していれば、多くの場合そのまま販売できます。ただし新しく別区分の商品を作る場合や、要冷蔵・要冷凍の取り扱いを増やす場合は、確認が必要になることがあります。管轄の保健所に事前に相談されることをおすすめします。
アレルゲンや賞味期限は、サイトのどこに書けばよいですか
商品ページの、お客様が購入を判断する位置に記載します。カート画面まで進まないと分からない状態は避けてください。手間の少ない方法として、パッケージの一括表示部分を撮影した写真を商品ページに載せておくやり方があります。
冷凍品を扱いたいのですが、送料が高くて利益が出ません
単品での販売は送料負けしやすいため、セット組みや詰め合わせで単価を上げる設計が基本になります。あわせて、送料無料になる金額を商品ページに明記し、まとめ買いを検討していただける形にします。まず1件あたりの利益を計算し、その上で価格を決める順番が重要です。
最初は何品くらいから始めるのがよいですか
3〜5点を目安にご提案しています。商品数が増えるほど写真・説明文・在庫管理の負担が増え、続けることが難しくなるためです。店頭でよく売れているもの、日持ちがするもの、送りやすいものから選び、売れ行きを見ながら増やしていく進め方が現実的です。
楽天やAmazonなどのモールと、自社サイトのどちらから始めるべきですか
集客力を優先するならモール、利益率とお客様との関係づくりを優先するなら自社サイト、というのが基本的な考え方です。どちらか一方に決める必要はなく、モールで実績をつくりながら自社サイトを育てる進め方もあります。扱う商品と体制によって適した形が変わるため、迷われる場合はご相談ください。




